大きすぎる和箪笥と、25年の保留

誰にでも、それなりの理由があって、そこにモノがあります。

大きいモノもあれば、小さいモノにも、それぞれの理由があります。

だからこそ、どう扱うかの判断に困ってしまうのです。

わが家にも、判断に迷い続けているものがあります。

大きな和箪笥です。

動かせない理由がある

母は、私が小さい頃から和裁をしていました。隣の部屋から、かけ針の音が深夜まで聞こえてきたのを思い出します。

父は朝とても早く出勤します。

送り出したあと、また、かけ針の音がカチャカチャと響きました。

母の背中を見ながら、私は裁縫に興味を持ち、いろいろなものを作るようになりました。

決して裕福ではなく、夫婦二人三脚で暮らしを支えながら反物を買い、仕事の合間にたくさんの和服を仕立ててくれた母。

当時は奈良に住んでいました。土地柄なのか、和裁をしていたからなのか、『いつか嫁入り道具に和服一式を持たせたい』と思っていたのでしょうか?

腕の立つ和裁士だった母は、貴重な反物をいくつも抱えていました。だからこそ、その扱いは厳しく躾けられました。

結婚後すぐ、和箪笥を買うようにとお金を渡されました。

けれど、知らない土地で探すのは思いのほか大変でした。

なるべくたくさん入る和箪笥をーー

家具屋のセールで、たまたま見つけた一棹を購入しました。

上が観音開きの和服入れ、下が引き出し。

幅1070mm

奥行600mm

高さ1930mm

ーーとても大きい。

子供が小さいうちは、まだ物も少なく個室もいらない。その頃は、まだ邪魔な存在ではありませんでした。

2DKの賃貸では、3帖の洋室に大きい和箪笥は置けず、伸縮式クローゼットを置いて納戸兼仕事部屋にし、和室に和箪笥を置きました。

和室にも大きな梁が出っ張り、和箪笥は上下に分けて平置きにしました。(和箪笥は上下に分かれることが多い。)

幅2140mm奥行600mm高さ1050mmの広い棚ができたので、敷布団は押し入れに仕舞わず、箪笥の上に置きました。子育ての忙しい時期は、見栄えより干しやすい方が助かります。

けれど、天井が低く梁がでている家では、そもそも縦おきができないーー問題は最初からあったのですね。

そして新しく移ったマンションも歪な形。

悩みは大きさだけではありません

私が興味を持ったのは和裁ではなく、洋裁。

和裁はできません。着付けすらできません。

なんてことでしょう!

この25年間、和服を着たのは一度だけ。長男の卒園式。

早朝から美容室へ行き、生憎の天気の中で出席。強風に煽られ、帰宅後すぐに帯を解きました。

ーー疲れた。

不幸の時に和装は間に合わいません。身内の不幸なら、なおさら心が追いつ来ません。

夏冬の喪服一式。どうしたものか。

晴れ舞台?地味婚が流行り、親戚も遠い。

いったい、いつ出番があるのだろう。

いっそのこと茶道を再開しようか。…いつやるの?

こうしているうちに、数年が過ぎました。

さらに夜なべして整えた母は、実は和裁にはあまり良い思い出はなく、和服も着ません。今は和裁をやめ、畑を耕しています。泥まみれの毎日を楽しんでいます。

実家にも、まだ和服が眠っている。まさか、追加されるのでしょうか?

大きな和箪笥は、いつの間にか、ただの家具ではなく、母の努力の塊であり、私の優柔不断の象徴になっていました。

そんな中、娘が去年成人しました。

箪笥の奥で眠っていた一式のひとつが、やっと表舞台に出てきました。

もしかすると、下の娘も袖を通してくれるかもしれない。

そう思うとーー

もうしばらく

あと少しだけ、この大きな和箪笥と付き合ってみようかと思っています。

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