木漏れ日のある2DK

古いマンションの和室の窓を開けると、大きな楠木が一本生えていました。ベランダから手が届きそうなほど近くまで葉が茂り、常緑樹の青々とした葉が和室にやわらかな木漏れ日を落とします。

その光が好きで、私たち夫婦はこの古いマンションを選びました。

小鳥が訪れると気持ちよく囀り、夏になるとミンミンゼミの声がにぎやかになります。葉は強い日差しを和らげてくれました。けれど大家さんが剪定を忘れると、今度は湿気がこもってしまうーー東京・文京区の自然と近すぎる部屋でした。

玄関の古いスチールドアを開けると、靴が3足並ぶほどの狭い玄関。いきなりキッチンとダイニングが広がります。

キッチンのすぐ後ろの天井には大きな梁。道路斜線を逃れるように傾いた壁。ダイニングの真ん中には扉のない洗面所。むき出しの古い大きな給湯器がどんと居座っていました。ダイニングの奥に、6畳の和室と3帖の洋室。

少し歪で、少しクセのある2DK。

けれど、私は最初からこの部屋がとても好きでした。

先日、二十年ぶりに東京に用事があり、そのマンションを訪れました。ただ、ひと目会いたかったのです。

わくわくしながら夫婦で懐かしい道をたどり、あの角を曲がった瞬間、目を疑いました。

敷地いっぱいに防音シートが張られていました。

解体です。

シートの隙間から、ちょうど私たちが住んでいた上の階まで取り壊されているのが見えました。ぽっかり空いた断面を前に、しばらく立ち尽くしていました。

あの和室に差し込んでいた楠木の木漏れ日は、もうどこにもありません。

ただ、懐かしく温かい思い出だけが、静かに心の奥に残っています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました